NTTデータ・スマートソーシングは、コールセンターをはじめ、SAP Concurを中心としたお客さまのバックオフィス系のビジネスプロセスアウトソーシングを行っている会社だ。また、住宅の売買に最適な不動産会社や物件の情報を紹介する不動産情報ポータルサイト、「HOME4U」の運営を行っている。
インタビューしたデジタルトランスフォーメーション事業本部では、SAP製品を軸にお客さまのデジタルトランスフォーメーションを後押しし、AIやRPAの導入を積極的に進めている。領収書の読み取りや仕訳のAI機能が搭載された「領収書Robota」を導入している。Robotaの選定理由や導入効果について聞いてみた。
課題
BPOが直面する課題に対して、人手だけに頼らない「デジタル化」が必要になってきている
NTTデータ・スマートソーシングはBPOサービスを行っている。NTTデータ・スマートソーシングは、2015年より出張・経費管理クラウドベンダーであるコンカーと事業提携を締結。コンカーのBPO、インプリメンテーションパートナーとして経費精算に関わる「SAP Concur+BPO」を提供している。
経費精算に関するBPOの作業ピークは月末月初などの締め日直前になりがちで、作業のピーク時にオペレーターの負担が増す課題が付いて回った。これを解決するためには定型的なオペレーションのデジタル化を進める必要があった。
デジタルトランスフォーメーション事業本部長の林麻由美氏は次のように話す。
「システムのクラウド化を進め、場所や時間に縛られる状態を変えなければ、本当の意味でのバックオフィス業務の効率化、働き方改革はできないと感じました」

また、経費精算業務におけるBPOサービスは、入力作業や多岐にわたる確認業務など人手による作業が多くある。
従来のような人手を中心としたBPOサービスだけではなく、AIやRPAといった先端テクノロジーを活用し、入力作業など定型業務はロボットに任せ、判断が伴う非定型業務は人で対応するハイブリッドなBPOサービスを提供していきたいと考えているという。
BPOにAIとRPAを組み合わせて自動化の領域を拡大することを目指し、ファーストアカウンティングのAIソリューション「領収書Robota」の導入を検討するにあたり、PoC(Proof of Concept:概念実証)を開始した。
導入のポイント
領収書Robotaの圧倒的な識字率が決め手
「とにかくPoCを実施して、どのぐらいその効果が出るかを私たちも計りたいと考えていました。そのため、PoCを行った経費精算業務のフローやオペレーションの内容は変えていません。」(林氏)
導入体制としては、ファーストアカウンティングのAIと経費精算クラウドシステムConcur Expenseをつなぐアプリケーションの開発者、全体管理者、それにファーストアカウンティングの担当者を加え、3名でプロジェクトを推進した。
導入までにかかった期間は、検討開始からおよそ3ヶ月。プロジェクト責任者として導入を推進したデジタルトランスフォーメーション事業本部 ワークスタイルイノベーション推進部 部長 岩沢昌氏は、早く導入が進んだのは企業様のConcur導入に長年携わってきた経験や知見からAPIへの理解が十分にあったからだと話す。
「APIに精通している者がいましたし、Concur Expense側とはどう連携するかは見えていました。3カ月間で十分にやりきれると思っていました。」(岩沢氏)
具体的なRobotaの活用シーンは、クライアント企業の申請者が入力した値と、AI-OCRで読み取った値が一致しているかどうかの突合作業だ。具体的には、Robotaに搭載されているAI-OCRで領収書を読み込む。そして、読み込んだ日付、金額、支払先の値が、経費申請時においてConcur Expenseに入力した値と一致しているかを確認する作業だ。
「Concur Expense上で経費申請を承認するか差し戻しをするかという判断を、今までは目で見て実施していました。その判断も自動で行えるようにしました。」(岩沢氏)

この申請の承認判断は100%の自動化はできなかったが、交通費系は自動化できている。交際費や軽減税などの税をその会社基準でチェックするので、個社要件になる。
「個社要件まで全てを自動化とはいかなかったが、一般経費、交通費、宿泊費は精度が高く、非常に効率的になったっていう認識は持っています。」(岩沢氏)
効果について
時間にしては30%から40%削減も、AI-OCRを導入し新しい課題が見つかったことが一番の収穫
今回の導入は、効果をまず知りたかったことから始まった。既存のお客さまのアウトソーシングの案件にAIを導入した形だ。
短期間での効果は、時間にしては30%から40%は削減された。当初は導入効果として50%くらいの削減を見込んでいたので、結果としては想定していた目標には届かない結果となった。想定目標との間に差が生まれた理由は大きく2つある。
一つは識字率の高さだけで目標削減時間を算出したことにある。「領収書Robotaほどの識字率があれば、人の目による確認作業がほとんどなくなると思っていた。」と岩沢氏は話す。しかし、Robotaが正し過ぎるがゆえに、経費申請者の入力とのちょっとした誤差に反応してしまう。例えば、支払先情報でABCD南青山店からの領収書の申請で、店名をABCD としか入力しなかった場合、Robotaで読み取る正確な値とは異なるので不一致と示される。
不一致との表示により、オペレーターは不一致があることで申請に不備があると思い、差し戻しをしたり、確認をしたりしてしまう。
「機械のほうが正しいのですが、入力値とは異なっている。そういったところをOKとするという運用者側への訓練が必要だと感じました。」(岩沢氏)
AI-OCRの結果を優先してOKかを判断するようにルールは作っているが、どうしても、文字が異なっているとアラートが表示され、オペレーターは気になって確認してしまうようだ。人のマインドも変えていく必要があると感じたことも大きな気づきポイントだったと話す。

もう一つの理由が、運用の流れは変えず、突合作業の部分にAIを入れてデジタル化をしたが、効果が限定的だったことだ。「抜本的に業務全体を見直してAI-OCRを組み込んでいれば、もう少しパフォーマンスを発揮できたかなと思います。」(岩沢氏)
「業務をつくり直しましょう」というようなBPR(Business Process Reengineering:ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を含めた提案をして、本当の効果は出てくると考えている。「BPRありき、AIなどのロボットが業務をこなすことを前提とした業務フローを構築していくことが、削減効果を出すためには非常に必要になると考えています。」(岩沢氏)